不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

不動産売却で税金がUPしたら? 譲渡所得が発生したら「ふるさと納税」をお得に活用しよう

不動産売却で税金がUPしたら? 「ふるさと納税」をお得に活用しよう

手間がかかるうえに気苦労も多い不動産売却。たとえ利益が出ても税金がかかってしまうのも痛いところだ。そこで注目されているのが「ふるさと納税」。不動産の売買に詳しい税理士の渡邊浩滋さんは「不動産売却時に税金を安くする方法として、ふるさと納税は非常に有効です」と語る。
なぜふるさと納税が不動産売却の節税になるのか?その関係と、どこまでお得になるのかを考えてみよう。

不動産売却とふるさと納税の関係

ふるさと納税は、自分が応援したい自治体に寄付をすることで、税金が控除される制度。寄付する自治体によっては、お礼として特産品がもらえるところがある。税金が控除されるうえ、肉や海産物からお米、家具などバラエティに富んだ返礼品が話題になっているのはご承知の通りだ。

「ふるさと納税を行った場合、寄付した額から自己負担金2000円を引いた金額が、所得税・住民税から控除されます。例えば、1万円を寄付すると、2000円を引いた8000円が所得税・住民税から差し引かれる。税金として納めていた金額をふるさと納税に回すことで税額が控除され、さらにお返しまでもらえるならとてもお得。だから人気が高まっているのでしょう」(渡邊さん)

ふるさと納税イメージ

ちなみに、控除の割合は住民税に比重が置かれ、確定申告をする場合、所得税は寄付金×税率(所得に応じて変わる)分が控除。確定申告不要のワンストップ特例なら、全額が住民税から控除される。

このようにメリットの多いふるさと納税だが、居住地にもしっかり税金を納めてもらわなければ財政難に陥ってしまう。そこで、設けられているのが控除の上限額だ。上限額は年収や家族の人数、子どもの年齢によって変わる。総務省が作成した目安表を見ると、年収600万円で扶養家族に妻と高校生の子ども1人がいる場合、控除の対象になるのは6万9000円まで。仮に、この人が8万円分の寄付をしても、1万1000円は控除外になってしまう計算だ。

■ふるさと納税年間上限額の目安(自己負担額2000円を除く)

ふるさと納税上限額の目安

※1「共働き」は、ふるさと納税を行う方本人が配偶者(特別)控除の適用を受けていないケースを指す。(配偶者の給与収入が141万円以上の場合)
※2「夫婦」は、ふるさと納税を行う人の配偶者に収入がないケースを指す(ふるさと納税を行う本人が配偶者控除を受けている場合)
※3「高校生」は「16歳から18歳の扶養親族」を、「大学生」は「19歳から22歳の特定扶養親族」を指す。
※4中学生以下の子供は控除額に影響がないため、計算に入れる必要はない。例えば、「夫婦と小学生」は、「夫婦」と同額に。また、「夫婦と高校生、中学生の子ども2人」は、「夫婦と子1人(高校生)」と同額になる。(出典:総務省HPより抜粋)

では、なぜこのふるさと納税が不動産売却に関係するのか。それは所得が増える可能性があるからだ。もし不動産を売って利益が出た場合、その分は所得として給与など通常の所得以外に課税される。課税される所得が増えればふるさと納税の上限額もアップ。より多くの寄付ができるというわけだ。

当然のことながら、不動産の売却益に対しても所得税と住民税はしっかり徴収されるが、これといった税金対策がないのが実情だと渡邊さんはいう。

「そのなかでふるさと納税は、モノという形ではあっても見返りが受けられる。実際、不動産の売却を考えている人から、ふるさと納税を使いたいという相談を受ける機会は非常に多くなっています」

■ふるさと納税はなぜお得?

ふるさと納税はなぜお得?

■ふるさと納税の仕組み

ふるさと納税の仕組み

(出典:総務省「ふるさと納税ポータルサイト」)

なぜふるさと納税が売却で有効なのか?注目は取得費不明の不動産

先述の通り、控除の上限額が引き上げられる可能性があるのは、あくまでも売却時に利益が出た場合だけ。「正確には、『譲渡所得』が発生したときに限られる」と渡邊さんは説明する。

「譲渡所得とは、売却価格から取得費と譲渡費用を引いた額。取得費とは購入代金に諸経費などを加えた総費用で、譲渡費用は売却にかかった諸経費です。購入代金のうち建物は保有年数に応じた減価償却費を差し引いた金額が適用されますが、一般の住宅の場合、不動産市場が低い時期に購入したなどがない限り、利益がでないケースのほうが多いですね」

不動産の譲渡所得税イメージ

こうした不動産売却ケースのなかで、上限額アップの切り札というべきなのは取得費不明の不動産である。先祖伝来の土地のような購入時期が昔に遡る不動産は、購入価格がわからなかったり、記録が残っていても貨幣価値に大幅なずれがあったりして取得費の算出は困難だ。

「この場合、取得費は売却額の5%相当額としてもよいという取り決めがあります。たとえば、代々受け継がれてきた土地を2000万円で売った場合には、取得費はその5%の100万円。売却の諸経費を引いても、多くが譲渡所得になるわけです」

譲渡所得が増えれば、その分の所得税や住民税の負担は増大するが、であればなおさら、ふるさと納税を利用しない手はないだろう。

建物の譲渡所得の計算式

※取得費は買ったときの価格に諸経費やリフォーム費用などを加え、減価償却をした額。譲渡費用は仲介手数料など売却のために発生した諸費用

減価償却の計算式(定額法)

※減価償却率は建物の構造で変わる(住宅用かつ非事業用の場合)。
木造0.031、軽量鉄骨(骨格材3mm超4mm以下の場合)0.025、鉄筋コンクリート造0.015

例)購入時に2000万円だった木造の建物を10年後に売却する場合の減価償却費
2000万円×0.9×0.031×10年=558万円

マイホーム買い替えではどっちがお得?「3000万円特別控除」VS「住宅ローン控除+ふるさと納税」

不動産売却と一口に言っても、マイホームの買い替えや投資用の物件の売却などケースはさまざま。どの場合でもふるさと納税の上限額アップに有効なのだろうか。

実はマイホームの売却は、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3000万円まで控除される特例が設けられている。売却益が出ても、3000万円以下ならこの特例を使うことで譲渡所得はゼロ。所得税も住民税もかからないので、ふるさと納税の上限額を上げるよりもはるかにお得感が強い。

「例外として考えられるのは、買い替えをするとき。マイホームの購入では住宅ローン控除を利用するケースがほとんどですが、特別控除との併用はできません。譲渡所得が数百万円程度の場合、特別控除を受けるより10年間の住宅ローン控除(※)を利用したほうがお得なケースがあるんですね。その場合には譲渡所得が発生しますから、ふるさと納税の上限額も引き上げられるでしょう」

ちなみに、セカンドハウスや投資用物件には特別控除はない。売却益が出た場合には、ふるさとの納税をうまく活用したいところだ。

2021年12月24日に2022年度税制改革改正の大綱が閣議決定され、住宅ローン減税の期間を13年間または10年間とする支援策が盛り込まれました。詳しくはこちら
2019年度与党税制改正大綱まとまる 消費増税時に住宅ローン控除を3年延長

住宅ローン控除の情報について詳しくはこちら
住宅ローン控除(住宅ローン減税)、まるごと解説。消費税増税で実際に戻ってくる税額は変わる?適用の条件や必要書類とは

源泉徴収でわかる、自分のふるさと納税の控除上限額はいくらか?

不動産にめでたく利益がでて、ふるさと納税をしようとなったときに、はたと気づくのが「自分の上限額は果たしていくらなのか?」ということ。渡邊さんによれば、上限額は自分で調べるしか方法がないそうだ。

「私のもとへの相談も、大抵が上限額についてです。難しいのは売却したその年の間に、寄付をしなければいけない点。上限額は年収に応じて決まるので、年間の収入が確定していない状態で予測をたてるわけです。年ごとに変動が激しい職業の人は予測が難しいのですが、固定給なら前年度を参考にすれば大きくはずれることはないでしょう」

ネット上には上限額を計算するシミュレーターもあるが、「社会保険控除など細かい数字が反映されないので多少の誤差がある」との話も。余すことなくふるさと納税に活用するべく、渡邊さんから自力計算の方法を教えてもらった。

「不動産売却を伴う場合、給与などの総合課税と譲渡所得の分離課税が混在するためいささか複雑です。まず、用意したいのは、前年の源泉徴収票や住民税通知書など。その中の『所得控除後の金額』をもとにして計算をしていきます」

詳しい方法は下にある通り。例えば、所得控除後の給与所得が1000万円で、5年超の不動産の譲渡所得が3000万円あった場合には、控除上限額が約35万円から約88万円に増加する。もちろん、給与所得や譲渡所得の額により金額は異なるので、自分はいくら増えるのかを計算してみよう。

不動産売却で利益がでた場合、ふるさと納税の控除上限額もアップする。その金額を弾き出せるのが以下の計算方法だ。

STEP1 源泉徴収票の「所得控除後の金額」をチェック

給与などの収入から各種控除を差し引いたのが「所得控除後の金額」。ふるさと納税の上限額はこの金額をベースに決められるので、前年の源泉徴収票や住民税通知書などでいくらあるのかをチェックしよう。下画像の源泉徴収票では、A欄からB欄の金額を引いたものが、「所得控除後の金額」にあたる。

源泉徴収票

※画像内の源泉徴収票の形式は一例

STEP2 所得から住民税所得割額が計算する

給与所得と不動産譲渡所得は課税方式が異なるため、別々に計算をして住民税所得割額を割り出す。総合課税の給与所得は、STEP1の「所得控除後の金額」に税率10%をかければOK。一方、分離課税の不動産譲渡所得は、売却した不動産の所有期間で税率が変わるが、いずれも該当する税率を譲渡所得に掛ければ算出できる。給与所得と譲渡所得、それぞれの住民税所得割額がでたら、それらを合算しよう。

1. 所得控除後の金額から住民税所得割額を計算する
・給与所得の住民税は総合課税で全国一律10%
例)給与所得(所得控除後)1000万円の場合
1000万円×10%=100万円

2. 不動産譲渡所得から住民税所得割額を計算する
・不動産譲渡所得の住民税は分離課税で、税率は以下の通り

所有期間 住民税率
長期譲渡所得(5年を超える土地・建物等) 5%
短期譲渡所得(5年以下の土地・建物等) 9%

例)譲渡所得3000万円で長期譲渡所得の場合
3000万円×5%=150万円

3. 住民税所得割額の合計額を算出
給与所得の住民税所得割額(1)と譲渡所得の住民税所得割額(2)を合計する
例)100万円(1)+150万円(2)=250万円(3)

STEP3 住民税所得割額と所得税率からふるさと納税の控除上限額を計算する

住民税所得割額が計算できたら、あとは式にあてはめて計算するだけだ。注意したいのは所得税率。給与所得によって税率は変わるので、STEP1の「所得控除後の金額」をもとに税率を確認してから上限額を弾き出そう。
※総合課税(給与)と分離課税(不動産の譲渡)の所得の両方がある場合には、総合課税(給与)の所得税の税率を使用します。

所得税の税率
課税される所得金額 税率
195万円以下 5%
195万円を超 330万円以下 10%
330万円を超 695万円以下 20%
695万円を超 900万円以下 23%
900万円を超 1,800万円以下 33%
1,800万円を超 4,000万円以下 40%
4,000万円を超 45%

計算式

ちなみに、不動産譲渡所得を加算しなかった場合は…
100万円×20%÷(90%―33%×1.021)+2000円 =約35万円

こうした計算をしてみると、不動産の譲渡所得の有無で上限額に差がでることは実感できただろう。実は、上限額の増え方は給与所得の額によっても変わり、一般的には年収が高いほど増え方も大きいといわれている。果たして実際はどうなのだろう。譲渡所得800万円を基準に、3パターンで比較してみたところ、最も増えたのは年収1200万円。譲渡所得が加わることで、上限額は14万円も上昇している。もっとも、ほかの年収でも10万円は優に超える増加となった。不動産売却とふるさと納税は、もはやセットで考えるべきだろう。

年収による上限額の違いを比較
(設定条件)
※長期譲渡所得800万円
※年収はいずれも源泉徴収票にある「所得控除後の金額」

1. 年収600万円

年収600万円

2. 年収800万円

年収800万円

3. 年収1200万円

年収1200万円

不動産売却で利益が出た場合、相応の税金がかかるのは仕方ないところ。もし、その税金を少しでも節約したいと考えているなら、今回、紹介したふるさと納税のような仕組みを活用するのも一つの方法だ。住宅や相続した土地などを売る予定があるなら検討をしてみよう。

※この記事は、2022年3月17日現在の情報です

構成・取材・文/上島寿子
監修/税理士・司法書士 渡邊浩滋総合事務所

イラスト/のりメッコ

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