不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

実家の不動産、遺産相続・売却トラブルを防ぐには?専門家に体験談を聞いた

実家の不動産、相続・売却トラブルを防ぐには?専門家に聞いた

相続でトラブルになりやすいのは土地や建物などの不動産。現金のように金額で明確に分けることが難しいからだ。土地や家をきょうだいで分ける場合の注意点を、札幌土地家屋調査士会副会長の小川和紀さんに聞いた。

実家の土地を相続。どんなもめごとや問題がある?

きょうだいで相続する場合

親が遺してくれた土地を、きょうだいで相続するとき、どう分けるかで悩むケースは多い。「それぞれが自分の希望通りの使い方ができる土地を、平等の広さや価値で分けられればいいのですが、実際には分けると使い道がないほど狭い土地になる、遠方に住んでいるので使い道に困るなど、誰かに何らかの不満が生まれてうまく分けられない場合があります」(小川さん、以下同)

また、土地を切り分けずにきょうだい全員の「共有財産」として相続した場合も、将来的にもめごとになることがある。

「例えば、土地を兄と弟で2分の1ずつ共有する場合、これは土地に線を引いて半分ずつ所有するのではなく、その土地に対する権利を2分の1ずつ持つということ。この場合、将来兄がその土地を売ろうとしても弟の同意がなければ売れません。兄が所有権を売ろうとしても、土地を購入したい人は、土地そのものを取得したいわけですから、誰かと共有になっている土地には買い手がつかないでしょう」

さらに、共有している土地が、子ども、孫へと相続されるごとに、土地の権利を持つ人が増えていく。権利関係が複雑になり、その土地全体を売却することはますます難しくなる。売却だけでなく、その土地を貸したり、駐車場にしたりなどの活用方法を考えたときも関係者の人数が多いほど意見がまとまらず、もめごとに発展する可能性が高くなるのだ。

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相続した土地や建物を複数の相続人で分けるとき、さまざまな問題が発生しがち

広い土地なら人数分に分けてトラブルを防ぐ

では、どうすればおだやかに分けられるのだろう。

「広い土地であれば人数分に切り分けてしまう(分筆)のがシンプルな方法です。売却もしやすいですし、家を建てる、駐車場にするなど、それぞれが自由にできます。土地の形や方角で不平等感が出ることはありますが、その場合、北向きの土地は広めにする、角地は小さめにするなどさまざまな分け方があります。とはいえ一般の方が、それを決めるのは難しいもの。相続人全員が納得できる分け方にするためには、土地家屋調査士に測量や分筆登記も含めて相談するのが有効です」

そのほか、土地の分け方とそのメリット、デメリットについて表にまとめたので、参考にしてほしい。

  土地の分け方 メリット デメリット
共有 ひとつの土地を複数の人で所有。土地に線を引いて分けるのではなく、その土地に対する権利を共有することになる 土地を手放さなくていい
まとまった広さの土地を広いまま維持できる
相続人全員の合意がないと売却や土地活用が難しい
相続が繰り返されるごとに権利者が増え、意見の合意がますます難しくなる
分筆 土地を切り分けて、相続人それぞれが所有する。ひとつ(1筆)の土地を2筆以上に分ける土地分筆登記が必要 土地を手放さなくていい
公平に分けることができる
土地を分けることで使いにくい小さな土地になる場合がある
方角や形で不満がでる場合がある
代償分割 ひとりの相続人がすべてを相続する代わりに、ほかの相続人にそれぞれの相続分と同等の現金などを支払う方法 土地を手放さなくていい
公平に分けることができる
遠隔地に住んでいる相続人から不満が出にくい
土地を相続した人が現金を用意する必要がある
換価分割 土地を売却して得た利益(現金)を、相続人全員で分ける方法 公平に分けることができる
遠隔地の土地の維持管理に悩む必要がなくなる
固定資産税・都市計画税の負担がなくなる
土地を手放すことになる
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建物の相続で気をつけたいのは共有名義と未登記

安易に共有財産として相続するのはトラブルのもと

相続した土地に親の家が立っている場合も、もめごとに発展しないように配慮することが大切。相続人の誰かが引き継いで住むなら、ほかの相続人から不満が出ないよう相続分と同等の価値の遺産や現金を渡すのがいい。 相続した家が二世帯住宅の場合など、仲のいいきょうだいだからと土地も建物も共有にして同じ屋根の下で暮らすケースも注意。当初は問題にならなくても、次の相続が発生したときや、どちらかが住み替えを希望したとき、建物のメンテナンスにかけるコストなどで意見が合わずにもめる可能性がある。 最もシンプルなのは、土地も家も売却して売却益を分ける方法だが、親が遺した家を売りたくない、と考える場合は、親の生前に関係者全員で話し合っておくのがいいだろう。

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「未登記」の実家は意外にある

一戸建てを新築したら建物の所有者や所在地、家屋番号、床面積などが記載される「建物表題登記」と、建物が誰の所有なのかという権利をあらわす「所有権保存登記」を行う。相続した親の家も、当然この登記がされているものだと思うだろう。ところが、建物を現金で建てた場合や、資金を勤務先の社内融資から借りて抵当権設定登記を求められなかった場合などに、未登記のままになっているケースがあるという。また、新築時に所有権保存登記はしていても、後に増築をした部分の登記をしていない「一部未登記」の物件もある。

「建物表題登記は所有権発生から1カ月以内に行う義務がありますが、所有権保存登記にはその義務がありません。住宅ローンを借りる場合に設定する抵当権は所有権保存登記がされていることが前提なので、住宅ローンを借りて建てた家であれば未登記ということはないでしょう。しかし、抵当権を設定する必要がなかった場合は、所有権保存登記をしておらず、建てた本人も登記をしていないことを忘れているケースがあるのです」

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登記済権利証

実家に「登記済権利証」が保存されているか確認しよう(※現在、登記の際は権利証ではなく12ケタの登記識別情報が渡される)

相続して未登記のままだと将来の売却・相続で問題発生

親が遺した未登記の家に、子どもがそのまま住み続けた場合には特にトラブルはないかもしれない。しかし、将来、売却しようと考えたときに問題が起こる。 所有権保存登記がされていないということは、その家の所有者が誰なのかが証明できないということ。 「売却によって建物の所有権が売主から買主に移転することを明確にできないため、買主は購入を見送るでしょう。買主にとっては、その家を購入したあとに、売主ではない人が所有権を主張してくるリスクがあるからです」 将来、スムーズな売却をするためには、登記がきちんとされていることが重要なのだ。

未登記の家を相続した場合は、建物を相続する人を決め、相続人全員で遺産分割協議を行うこと。そして、遺産分割協議書を添付したうえで、建物を相続する人の名義で法務局に申請する。 「相続前に実家が未登記だとわかったら、家を建てた人の名義で早めに登記をしましょう。未登記のまま親が亡くなって長期間放置していると、やがて相続人も亡くなり、その子どもが相続に関わることになります。権利関係が複雑になるほか、登記に必要な建築確認済証や建築会社の証明書を手配することが難しくなります」

自分の実家は未登記かもしれない、という可能性を少しでも感じたら親に聞いてみよう。または、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を請求し、所有権に関する事項の欄を確認しよう。なお、親が「固定資産税の納付書が毎年来てるからだいじょうぶ」と言う場合も、未登記の可能性はある。固定資産税は市区町村が課税する地方税で、建物の登記とは管轄が違う。未登記物件でも自治体が独自に調査を行って課税されているケースもある

土地の相続も建物の相続も、トラブルを避けるためには親が元気なうちの対策が大切。不動産を含めた遺産を、どうやって分割するのかを話し合っておきたい。その際、実家の登記についても確認しておくのがオススメだ。

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※この記事は2022年3月25日時点の情報です

取材協力/札幌土地家屋調査士会
構成・取材・文/田方みき

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